エストロゲンのお勉強10(エストロゲンは女性を病原菌から守る)

生殖のために外部から精子を取り込む必要のある女性の生殖器は、
膣、子宮の内腔、卵管の内腔を通じて外部と骨盤内が交通しています。
つまり女性の生殖器は受精を容易にする代償として病原菌も体内侵入しやすい構造をしています。
病原菌が膣を超えて子宮に侵入するのを防ぐメカニズムにエストロゲンが関係しています。
エストロゲンが豊富な時は、膣内にデーデルラインという細長い桿菌が多数存在ます。
この菌は病原性がなく膣内にのみに存在して女性に害を及ぼすことはありません。
デーデルラインにより膣内では乳酸が産生されpH4~5の酸性に保たれています。
酸性の膣の中ではデーデルライン桿菌以外の多くの細菌は繁殖できず、女性を細菌感染から保護しています。
閉経後にエストロゲンが減少すると、デーデルライン桿菌の繁殖ができなくなります。
すると膣内に細菌が繁殖しやすくなります。
黄褐色のおりものが増え、かゆみなどの不快な症状がでます。(老人性膣炎)
【妊娠中の防衛】
排卵まではエストロゲン、排卵以降はエストロゲンと黄体ホルモン、
更に妊娠中は高濃度のエストロゲンと黄体ホルモンが協調して母体を感染から守っています。
侵入した病原菌を直ちに攻撃する自然免疫の能力が高まっています。
自然免疫の力は高まっても、妊娠中の身体の変化や様々なストレスにより感染のリスクは低下するわけではありません。
【エストロゲンが防いでくれる感染】
膀胱炎や尿路感染は閉経後はリスクが高まります。
【免疫関連疾患とエストロゲンの関係】
一般にエストロゲンは免疫系を活性化させ、男性ホルモンや黄体ホルモンは抑制的に作用するとされています。
しかし免疫系が高まりすぎると、自己免疫疾患といって、免疫システムが自分の身体を攻撃する危険が増えることになります。
甲状腺機能低下の橋本病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE),強皮症などの自己免疫疾患は女性に多いです。
関節リウマチも自己免疫疾患ですが、閉経後に発生することもあります。
気管支喘息、ベーチェット病、アトピー性皮膚炎などもエストロゲンの低下する月経期に増悪する傾向があります。
これらから考えて、単にエストロゲンの濃度だけではこれらの病気を説明することはできないし、
全ての病気の免疫に有利に作用するとも言い切れないのも事実です。なかなかメカニズムは複雑なようです。
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